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墨田ペトリ堂の身辺雜記 「二面楚歌」


ペトリあんてな
二面楚歌 断章
二面楚歌 グラビアレビュー備忘録
寒空文庫(仮)
写真日記二面楚歌 隠居所
petri's fotolife
酒田へ行きたい
ザ・インタビューズ

投票などするな!

投票行為は君たちの人間性の否定なのだ。
投票を依頼してくる連中など無視せよ。
連中は諸君の敵だ、連中は権力を握りたがっている。
すべての政治家はそれが共和派であれ、王党派であれ、
共産党であれ、われわれの敵だ、
投票用紙を破り捨てろ、
投票箱をぶち壊せ、
候補者だけでなく、選挙管理委員たちの頭もなぐり割れ。


1933年11月 CNT(Cofederacion Nacional del Trabajo)の声明より


2013-12-08 キャビア茶漬けの違和感 [長年日記]

_ sharaku vol.03

プロカメラマン5人のグループ展も3回目を向かえ、新規メンバー2人ゲスト2人を加えての開催。
増えた分会場も広くなり、A会場に創立メンバー、B会場に新規の2人とゲスト。

会場は新宿西口、長距離バスターミナルのあるビルの地下に出来たヨドバシフォトギャラリー「INSTANCE(インスタンス)」。
広さとしては申し分ないが、如何せん古いオフィスビルなので天井が低い。 圧迫感があり、何より問題なのは照明を上から吊れないこと。 考えて当てられてはいたが、見る方向をどう変えても照明が反射してしまって一枚の写真を見渡せないと言うのは写真を見せるギャラリーとしては致命的。 ディフューズせずに直接当ててしまっていて、ライトの色温度も顧慮されていない。
まぁ私の写真を見せる環境としての基準は土門拳記念館なので、点は辛すぎるかもしれないが、写真を見せるスペースとして何をどう設えるかについてきちんと考えているとは思えない造りであった。

出展者が増えた分、会場は二箇所に別れていて、創立メンバー5人がA会場、今回から加入したメンバーとゲストがB会場。
テーマがヌードと言う事で「誠に勝手ながら18歳未満の方の入場をお断りとさせて頂きます。 」とのこと。

小池伸一郎
モノクロで8点。
砂丘を登って行く後姿を追った連作、最後の一枚は登りきったところを正面から撮ったもの。
背景は砂丘と空と地平線のみと言う潔さ。 登って行くにつれ、地平線の傾きが変わって行くのも面白い。

吉田裕之
「OIRAN」と題して美人画に見立てた見えそうで見えないヌードをカラーで11点。 落款が押してあるのが "らしく” て良い。
着物から装身具から小道具から、兎に角「道具立て」に凝っているのは判る。 お仕事抜きにやりたい事をやりたいようにやった写真。
綺麗事過ぎてあまり好みではないが、いやはや美しい。 すっきりした気持ちの良い写真。

松田忠雄
木漏れ日、巨岩、苔。 しっとりしたヌード。 カラーで大きいのを5点。
ピントは総じて薄めで、一寸外したような、どこに来ているのかわからないようなのもあって訝しく思ったのだけれど、ふと思い立って反対側の壁近くまで離れてから見て驚いた。 ピントが来ていないように見えた、向かって右端の岩に腰掛けた脚のひざから下だけを撮ったその写真が立体的に目に飛び込んでくる。

門嶋淳矢
ほぼ真っ黒なモノクロ5点。
乙な年増を旅館と思しき薄暗い和室で撮っていて、生々しくはありつつ事に及んだような臭気は無く、真面目にふざけたような写真。
潰れるか潰れないかぎりぎりのところを攻めて黒に近い灰色と黒の間の色を出した、自分でプリントすることを考えると頭の痛くなるような難度。
額装するときに付いたのか客が誰かやりやがったのか、何箇所か引っ掻き疵がついてしまっていたが、ガラスを嵌めてしまうと、多分このプリントの微妙なニュアンスは伝わらない。
「黒より黒い黒」などと暗室に篭って呪術めいたことをやつていた頃を甘苦く思い出す。
門嶋淳矢の写真は、このグループ展の「初心」を体現しているように感じられた。

三輪憲亮
2点を一枚に焼いたものを4点。
奥多摩の廃線や廃墟で撮ったモノクローム作品。 上手くて器用、プリントも無難で且つ綺麗に仕上がってはいる、・・・がどうも何かがおかしい。
寄ったり離れたりして見ていたらモデルの背中の線が背景に馴染まず黒く輪郭を描いている。 よくよく見るとモデルと背景の照度差にも辻褄の合わないところがあり、モデルの身体のみがコラージュのように浮き上がってしまっている。
焼き込み・覆い焼きの域を逸脱して修整までしてしまったかのようなレタッチ。 光の足し算引き算に狂奔しているうちに、その日その時にその場所で写し取られたものがどこかにすっ飛んでしまっている。
小手先の技術がセンスで切り取ったものを塗り潰してしまった悪例。

野澤亘伸
ヒシと思しき水生植物が水面を埋め尽くす湖沼に浮かぶ和船、蘆原、水中。 水に所縁のある場所で撮ったカラー5点。
右端に飾られた船の中に横たわるカットで脚に巻いていたリボンの日焼痕が左端の水中で撮ったカットで生々しく浮かび上がったり、配置も面白く。
モデルの面相が判然としない撮り方も良かった。

山岸伸
球体間接のドールとモデルを綯い交ぜにしたようなカラー10点。
境目を曖昧にしているのでどちらがどうなのだか判然としない。 背景や小物との縮尺感で辛うじて見分けられるが、1点だけわからない物があった。
この枯淡が「今の山岸伸」なのだろう。

上野勇
唯一名の通ったモデルを起用した連作。衣装・小道具からロケーションまで凝っているのだけれど、撮りたいイメージが有ってモデルを起用したのか、撮りたいモデルからのイメージなのか判然としないが、一番「お仕事」に近い写真。
モデルは生かしきっていて、写真としての質は非常に高かったのだけれど、お茶漬けを作り較べて楽しむ会でキャビアのっけちゃったような割り切れなさ。
そりゃまぁおいしいのであるが、と言う部分。

渡辺達生
「ホーマンヌード」と題して古代ケルトの豊穣の女神像の(良く言えば)ような被写体を撮った巨大なモノクロ作品2点。
お仕事抜きで撮ったものは矢張り巧くて、光を見極め操る手練は素晴らしい、・・・がそれだけの鬼面人を威す写真。
横綱が立ち合いの変化で勝ってご満悦(勝っているとも思えないが)、弟子のやっている作品撮りの写真展にゲストとして出品する写真ではない。


なんだかんだ言ってもカメラマンの本気が見られる写真展は見応えがあるし楽しい。
門嶋淳矢の薄暗がりの中にモデルを立たせたもの、松田忠雄の岩に腰掛けた脚のひざから下だけを撮ったもの。 この二点が特に印象に残った。
松田忠雄は個展を重ねるごとに研ぎ澄まされてきているように思う。 良いレンズを使うとレンズに撮らされてしまうことがまま有るが、撮らされるでもなくねじ伏せるでもなく、レンズに機嫌良く仕事をさせているような印象で、被写体に対しても当たりが柔らかく、圧伏せしめるような撮り方をしていない。
腕の良い掏摸、もしくは結婚詐欺師



「按ずるに筆は一本也、箸は二本也。 衆寡敵せずと知るべし」
斎藤緑雨


文責:墨田ペトリ堂
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