オリンパスのショールームとギャラリーが神田から新宿へ移って二周年と言う事で開催されているイベントの一つ。
PEN-F(※現行の)のカメラ側の設定で、どれだけ撮りたいイメージに近い写真が撮れるかと言う機能解説と、写真そのものについての話が半々。
中藤はモノクロ、コムロはカラーを担当。 今年の一月に見た中藤の写真展『Sous le ciel de Paris』が、やはりオリンパスのマイクロフォーサーズ機で撮られたもので、これが「デジタルでのモノクロ表現も此処まで来たか」と感嘆させられる作品群であったのだけれど、スペインや東京で撮ったものも含め、撮影時の話や、使ったレンズ・機能について。
コムロミホはキューバやパリで撮った写真を中心に、光の状況や出したい色に合わせせてのカメラの機能の使い方について。
特定の色をカメラ側の操作で抜いたり盛ったりできるので、キューバの車の原色の鮮やかさを増したり、水銀灯の緑かぶりを消したり、朝のもやもやした光を引き締めたり。 色の出し方や差し引きの匙加減の上手さには唸らされた。
共通しているのは「RAW現像をしない」と言う事。
中藤がカメラの設定を予め済ませておくことにより、RAW現像をせずとも意図した色合いに近づけられることに美点を感じているのと対照的に、コムロはフォトショップでの作業と同質の事を、より簡便にカメラ側で行えることに美点を感じており、その違いが興味深かった。
これはカラーとモノクロとで求める物が違う事と、ウェットダークルームでの作業経験の有無に起因するものだと思われる。
モノクロームで撮る場合、カメラ側での条件設定は「フィルムや印画紙の種類」「現像液の種類と処理温度や時間」にあたるので、ここを決めておけば上りは或る程度コントロール出来るのだけれど、オリンパスPEN-Fはかなり細かいところまで弄れるようで、コントラスト調整用のフィルター機能やNDフィルターの機能まであるとのこと。
パソコンで写真と睨めっこをして調整すると、一枚々々はそれなりに仕上がっても、組み写真にした時に色味が揃わないことがままある。 それが防げるだけでも作品を仕上げる効率は上がる。
思わぬところで物欲を刺激されて嫌な汗をかいた。
腐食が進んで銀の被膜がはがれかかった鏡に映したポートレートについての裏話のなかで、「 LOVE ON THE LEFT BANK(セーヌ左岸の恋)」にあった同種の写真を意識して撮った事が語られたのだけれど、傷ついた心の暗喩のようなエルスケンのそれに対して、モデルの女性が来ていたヨレヨレのTシャツを隠すためにそう撮った中藤の悪戯心が面白かった。
また、夜のパリを撮るに際しては嘘か本当か「良い写真が撮れますように」とブラッサイの「夜のパリ」に手を合わせて祈ったとか。
一寸残念だったのは、転がると面白いこの二つの話題が転がらなかったこと。
知っているから、見たことが有るから良い写真が撮れるとは限らないが、どちらも人生を豊かにしてくれる写真集だと私は思う。
見たことが無かった、知らなかった人は、一度手に取って眺めてみて欲しい。
中藤の話の進め方で感心したのは、相手が知らないかもしれないことを考慮して「エルスケンって知ってますか?」「ブラッサイって知ってますか?」と確かめていたこと。
知っていれば知っていたなりに話を進められるし、知らなければ説明から始める。
最後は駆け足になってしまったが、見応え聴き応えのあるクロストークだった。
出口でオリンパスの方から冊子とカタログをいただく。 オリンパスPEN-F、実に悩ましいカメラであった。