福井の荒ぶるアイドル せのしすたぁ が上京とのことで、見に行ってきた。
数十年に一回の大雪とあって、郊外在住の知己の中には都内へ出てくるのを断念したのも居たくらいで、前評判の高さからすると多くは無い集客。 それでも観覧エリアは埋まっていた。
大体時間通りに開演。 黒いキャミソール的なものの上から白いワイシャツに黒いネクタイを締め、下は黒のパンツと言うかスラックスと言うか。 ジャケットとボルサリーノを脱いで、サングラスを外したブルースブラザースと言った感じのいでたち。 のっけから紙袋を被って登場し、しばらくそのまま歌う。
IRAごっこ由来かと思ったら、そう言う事ではないようだ。
喋りは達者と言うほど達者ではなく、内容も詰めて来てはいないのだけれど、その分 "その日" "その時" の客の状態に合わせて臨機応変に。 横から最低限の指示は出るので、ぐだぐだになり過ぎる事も無く、喋ってダレると見るや次の曲に行く潔さもあるので間延びし過ぎる事も無い。
紙袋をぶん投げたあと、しばらくはステージの上だけでおとなしく(おとなしくも無いが)歌い踊っていたが、エンジンが掛かって来るとかわるがわる客席に下りてきて煽ったり叫んだり、オーイングサークルに参加したり、最前列でガッツいたり。 仕舞いには柵を乗り越えてステージに戻ったり、その柵を客が支えたり。
客席に下りてきても怪我人が出るような騒ぎ方ではなく、割と牧歌的。
客の側の自己顕示の為の悪ふざけも突出した形では現れず、ステージの上から盛り上がることを強要することも無い(なぜなら、そう言うときは下に下りてくるから)
コアな客は所謂「ピンチケ層」と「クラブ系(いろんな意味で)」に分かれているのだけれど、それなりに上手くやっていていがみ合うことも牽制し合うこともない。
客の規模と質のバランスの上に成立した幸せな祝祭空間。
オケのベースラインがしっかりしているからか、アイドル現場にしては珍しく手拍子が走ることも遅れることも無い。 これは曲作り音作りの上手さを象徴しているように思った、
歌詞に感謝するくだりがあるところでは「土下座しまーす」と明るく土下座。 客も一斉に土下座。 まったくどうかしている。
歌声は ゆうほ が主で、まお が従と言った感じ。 声量と声の質で引っ張っている。
振り付けは ゆうほ が担当していて、動きもエモーショナル。
喋ったり煽ったりする部分は まお が、歌って踊る部分は ゆうほ が主導、役割分担をざっくり纏めると別表の通り。
ひとしきり暴れた終演後、店の人に「すいませんでした!」と土下座していたのが面白かった。
参考:せのしすたぁオフィシャルサイト
コラム置き場に
自己実現に失敗した大人達の失われた人生を押っ被せられるアイドルの不幸についての一論考
をアップロード。
書いたり消したり直したりしているうちに年を越し、春になってしまった。
大雪の余波で諸方交通機関が乱れる中、安定して動いている都バスで両国へ。
前夜にテレビで両国の町が取り上げられたらしく、焚き付けられて町をうろつく輩も多かったようだ。
「生兵法」立川寸志
「動物園」立川らく里
「時そば」立川らく里
<中入り>
「血煙高田馬場」「敵違い」「月世界旅行」片岡一郎
「熊野の牛王」立川らく里
開口一番は談四楼門下の寸志さん。
「生兵法」立川寸志
以前見た時に感じた天狗連臭がなくなり、口調のよさだけでは無くなっていた。 間が良い。
片岡一郎さんの活弁は流石に真っ暗な中で撮ったものはどうにもならず、写真は無し。
メリエスの「月世界旅行」は四方田犬彦の著作の中で紹介されていて知ってはいたが、実際に見たのは初めて。 思ったより雑なつくりで、その粗雑な筋立てをあの手この手で補完する弁士の語りが楽しい。
らく里さんは根多おろしも含めて三席。
「熊野の牛王」は「権助魚」の続きと言うかサゲの違うものと言うか。 誰もやらない物と言うのには、大抵合理的な(つまらないとかわかりにくいとか)理由があるものなのだけれど、蛇足と言えば蛇足ではあるのだけれど、これはこれで良いかなと思えるもの。
らく里さんの落語の面白さは、先代可楽にも似た「吐き捨てるような科白」と、謎の信念に凝り固まった困った人の描写にあると思うのだけれど、新作を演る際に色濃く出ていたそれらが、聞き慣れた古典にも出るようになっていて驚きつつ楽しんだ。
「動物園」立川らく里
墓参を済ませて都内へ戻る車中で時計とスケジュールと見比べて、なんとか間に合いそうな亀戸へ。
日曜の田舎の電車の事ゆえ接続が悪く、サンストリートに辿り着いた頃には一時を回ってしまっていたが、開演が遅れたらしく一曲目の途中に間に合った。
風は冷たいが、南中高度が上がった所為か陽射しは強くなっており、日なたに居る分には暖かい。 晴れた土曜とあって買い物客も多く、目当てで来た客以外にも足を止める人は多く居た。
リーダーの白戸が「今日から10日連続のリリースイベントです。」と話すと、客も演者も苦笑。 リリースイベントもフルアルバムとなると連日それなりの曲数を披露することになり内容も変えなければならない、客の側も枚単価が上がることによる可処分所得への食い込みが厳しくなる。
見終えてから友人とも話したのだけれど、このアルバムの少し前から、音作りが変わってきたような気がする。 音数が減ってシンプルになった分、聴きやすくなった。
振り付けもこれ見よがしに激しく難度の高さを見せ付けるようなくどさは無くなり、高度な表現技術を事も無げにこなしてみせる方向に舵を切られており、スーフィーのスカートのように回転することで美しく広がるスカートを生かした貯めの有るターンも増えた。
これまでの盛り込み・詰め込み過ぎてくどく野暮ったかった部分が整理されて、よりシンプルに。 この方向性は間違っていないと私は思う。
スケジュールの都合とかで早坂がお休み。 全篇被せオケ無しの生歌でやっているので、歌割りに関しては変更があったようだが、フォーメーションに関してはそのまま。 この辺りの判断も良い。
今日は全員ストレート。 髪の長さや髪質、振り付けの解釈が異なるので髪の躍らせ方にも微妙な違いがあって面白い。
高橋麻里は湿度が低いのと激しく踊る曲の後に歌い上げる曲が続くセットリストに手古摺っているところもあったが、今日も安定した歌唱。
秋元瑠海は定型から少しはみ出すくらいの大きな動き。 それを悠々とこなすので見ていて飽きない。
どのメンバーについても言えることなのだけれど、動きの激しさから凶相になることが無くなり、声を張り過ぎなくなった事により悲壮感も消えた。 これは大きな、良い変化だと思う。
メグリアイの坂本寿里が本日限りとの事で、万障繰り合わせてみた。
出演は坂本のほか、山田・山中・佐々木・大塚・野月の6名、受験期間でお休みの岡崎みさとと、体調不良らしい白鳥愛花がお休み。
今回は企画コーナー無しで全篇ライブ。 坂本が考えたセットリストが上手く出来ていて、最近あまりやっていなかった曲も含めて盛り上がれるものを中心にしつつ、聞かせる曲も挟み、最後に代表曲中の代表曲で〆る趣向。
構成の良さもあってライブそのものは楽しかったが、今日で辞めて行く坂本がアイドルとしての振る舞いに飛びぬけて長けており、今後に不安は残った。
坂本はキャリアが長いこともあって持ち歌の全てを自家薬籠中のものとしており、振り付けも動きの持つ意味を解して踊れているし、客の総体を大掴みに捉えていて、その場に居るすべての人を殺しに行っているのだけれど、4期以降になるとこれが出来ていない。
4期5期の連中が、そうした表現技術以前に振り付けやフォーメーションを憶えるのに汲々としているのを見るにつけ、メンバー個人の資質ではなく送り手の矜持に係る部分の欠落が状況を沈滞させているように思う。
<時間切れ、この項続く>
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