前の晩に行った両国亭にチラシが有ったので、仕事帰りに神保町へ。
前講無し、前座さんと頼まずに愛山先生が一人で、たっぷり二席。
「徳川天一坊 越前切腹」
続き物を読むときには、それまでの粗筋を簡潔に纏めて初めて聞くお客さんにも分かるようにすべき、ここには自信を持っておられるようで、実際粗筋だけで一席成立するのではないかと思うほど。
春陽先生と松之丞さんを引き合いに出し、「あいつらに後を託すことになるとは・・・。」と慨嘆しつつ、嬉しそうでもある。
粗筋から始まり、何故大岡が切腹せざるを得ない状況まで追い込まれているのかが示されてから、緊迫した場面が始まるのだけれど、愛山先生が化ける。
「骨の音」
結城昌治の短篇を講談に仕立てたもの。 冒頭に説明方々多少有るくらいで地の文は少なく、温泉地の盲目のマッサージ師と客となった初老の紳士会話で進む。
始めは勇ましかった紳士が怖気を発し、下手に出ていたマッサージ師が次第に雄弁になって行くさまに引き込まれる。
不気味だが腑に落ちる、恐ろしくはあるが後味は悪くない結末。
楽しいより愉しい。 心地よい言葉の海に揺蕩う一と時。
愛山先生の会に行って翌日が貞橘会であることを知る。
午前中に用足しをして午後から神保町へ。
「渋川伴五郎」田辺いちか
「黒田節の由来 呑み取りの槍」一龍斎貞橘
「情けの仮名書き」宝井琴柑
「小猿七之助 永代橋網打因果噺」一龍斎貞橘
仲入り
「一心太助一代記 彦左と太助の出会い」一龍斎貞橘
いちかさんは見るたびに確実に良くなっている。 口調の骨格がしっかりしてきたと言うか。
渋川は確か二度目だが、こなれて来ている。
琴柑さんは久しぶりに。
学生時代を山形で過ごした縁からか、米沢藩を題材にした「情けの仮名書き」。
藩校であった興譲館が県立一の進学校となっている話なども織り込みつつ。
嫋やかさもありつつ、講釈の口調は崩さない。 程が良い。
貞橘先生は例によって緊迫し過ぎると安全弁を開けて客の肩の力を抜いていくのだけれど、見せ場では畳みかけて引き込むし、聴かせるべきはしっかり聴かせる。
気楽に聞けて肩が凝らず、楽しく過ごせて充実感もある。
余暇の過ごし方としては理想に近い会。
八月は休みで次回は九月。