駿河台下の交差点から程近く、再開発街区の手前にある小さなギャラリーでの写真展。
モノクロームのヌードなのだけれど、ざらついた粒感の強いプリント。
被写体もぶれたりボケたりしているので顔かたちなどは判然とせず、美しいが淫靡ではない。
そして銀の絵の具で何やらフランス語の箴言めいたものが書きつけてある。
「ブレ」「ボケ」「ざらつき」
いつか来た道ではありつつ、今これをやる事に意味を見出したのであろう。
被写体以外は漆黒の中に在り、銀塩の頃はこの黒が出せなくて苦労したのであるが、反面プリンタ出力のベッタリとして階調のない黒からは「黒と灰色の間の黒」や「黒より黒い黒」を目指して現像液の中で印画紙を撫で回しながら仕上げた呪術的なプリントから漂う妖気のようなものは感じられず、かつては出来なかった事が出来るようになり出来ていたことが出来なくなる。
その中で抜け落ちてしまったものを補完しようとする意図で書き連ねられた文字列なのかもしれない。
私の好きな写真とは対局にあるプリントでありつつ、嫌な感じはしないし見応えもある、そしてとても疲れる写真展であった。
銀塩からデジタルに移行してどう写真と向き合って行くのか、それを突き付けられたような気がした。