小袁治師が六日目に「柳田格之進」を掛けると言うので、万障繰り合わせて新宿へ。 なんとか中トリ前には潜り込めた。
「子ほめ」菊丸
「二人旅」小里ん
<中入り>
「新聞記事」小せん
「紙切り」二楽
「浮世床 夢」扇好
「漫談」ひな太郎
「太神楽」翁家社中
「柳田格之進」小袁治
小袁治師匠の池袋での独演会が、この噺の根多おろしであったと記憶しているが。 私がこれまで見聞きした落語の中で、最も衝撃を受けたのがあの時の「柳田格之進」であった。
狙って聴けるとあらば万障でも何でも繰り合わせる。
客の入りはそこそこだったが、中入りから前の方にギュッと寄せる感じで詰まってきた。
「二人旅」、「新聞記事」、「浮世床 夢」は好きな感じの柳家の芸。
紙切りで出たお題、「浦島太郎」に「なごり雪」ぼやきながらも「なごり雪」をそれらしく切り上げて拍手喝采。
最近見た太神楽は丸一(鏡味)系統のものが多かったので、久しぶりに見る翁家の芸は新鮮。
出囃子に乗って出てきた小袁治師。 少々いがらっぽそうに咳払いをしつつ喋り出し、「楽屋で馬鹿っ話をしておりまして」などと言い訳をしつつ湯呑を手に取って喉を潤す。
優柔不断と一寸したうっかりと行き過ぎた忠義から始まった不幸の連鎖が、柳田の堪忍によって断ち切られる。
四人の主要人物が人生の底を脱した瞬間、それが柳田が碁盤を両断したその時なのであろう。
取って付けたような大団円は描かれず、碁盤と共に物語も断ち切られて終わるのであるが、そのあとどうなるか考えると、皆不幸にはならずに後の人生を送れる、そんな気がしてくる。 いや、凄い。
久保田万太郎晩年の句
湯豆腐や いのちのはての うすあかり
そんな感じのあと味。
小袁治師の「柳田格之進」。 見たい聴きたい落語そのものだった。 喜怒哀楽綯交ぜの、複雑な感情が押し寄せる。 それでいて草臥れない。
私が今、寄席芸能に求めているのはコレなのだなぁ、と得心する至芸。
沁々と帰宅。